では、変死といった事故が心理的瑕疵に当たるか否かを認定する基準は何か。そのいわば座標軸としてどのような事情が考えられうるのか。
それらとしては、1.死亡事故の形態、2.死者と売り主との関係、3.事故の場所、4.時間の経過、5.その他の事情が考えられよう。そして瑕疵とし認定しうるか否かは、一般にこれらの事情の座標軸の組み合わせという総合的考察のうちで、決定されるものであろう。例えば、紹介した事例のように、首つりといった死に方で売り主の配偶者の事故の事例では、裁判所は6年以上の長時間経過後においても瑕疵の認定をした。これが、部外者が事故の巻き添えでたまたま目的物件の玄関先で絶命したといったケースでは、常に心理的瑕疵に該当することになるとは限るまい。そこで、このような心理的瑕疵の各認定基準(座標軸)についての問題点を簡単に摘示する。1の死亡事故の形態では、人は誰でもいつかは死亡するものである以上、病死や老衰等自然死については瑕疵の問題にはならないであろう。他殺や首つり自殺に代表される変死に限られよう。2の売り主との人間関係では、目的物件の同居の親族は問題とされようが、死者が部外者であるようなときは、他の基準との関連を考慮して決せられるべきものであろう。3の事故現場が目的物件とどのような位置関係にあるかも問題となる。建物でも附属の物置や庭先での事故はどうか。マンションの共用部分に当たる廊下、階段ではどうか。4の時の経過も、紹介した判例の6年以上についても積極に解することについては疑義をはさむ者も多い。その他の5としては、事故のあった建物を改築したうえ、いわゆるお清めをしたらどうか、人の出入りの激しい大都会と過疎地域とでは相違するのか等々も問題となろう。
上告審において高等裁判所は、次のような判断を下した。 (1)一般に建物賃貸借における賃借人の原状回復義務とは、1.賃借人が付加した造作を取除く義務、2.通常の使用の限度を超える方法により賃貸物の価値を減耗させたとき(例えば、畳をナイフで切った場合)の復旧費用の負担義務等を解される。 他方、1.賃貸期間中の経年劣化、日焼け等による減価分や、2.通常使用による賃貸物の減価(例えば、冷暖房器の減価、畳のすり切れ等)は、賃貸借本来の対価というべきであって、賃借人の負担とすることはできない。
(2)もし、上記の原則を削除し通常損耗も賃借人の負担とするときには、契約条項に明確に定めて、賃借人の承諾を得て契約すべきであるが、本件賃貸借契約書第21条の「契約時の原状に復旧させ」の文言は、契約終了時の賃借人の一般的な原状回復義務を規定したものとしか読むことはできない。
(3)また、本件覚書は、本件契約書第21条を引用しているから、これを超える定めとしたとは言えず、通常損耗を賃借人が負担すると定めたものとは解されない。
(4)原判決の判断は契約の解釈を誤ったものであって、破棄を免れない。そして、賃貸人の支出した費用が通常損耗を超えるものに対するものであったかどうかについて審理する必要があるから、本件を原裁判所に差し戻す。
「一般に、仲介による報酬金は、売買契約が成立し、その履行がなされ、取引の目的が達成された場合について定められているものと解するのが相当である(最高裁昭和49年11月14日第一小法廷判決)」としたうえで、控訴審は以下のように判示した。
(1)本件売買契約に際して手付金が授受されており、媒介業者は各当事者に手付放棄または手付倍返しによる解除の可能性があることを念頭に置き、媒介報酬の額についての特約もあらかじめ媒介契約に定めることは容易であった。
(2)一方、依頼者である売主としては、媒介契約に報酬額の特約が明記されるか、履行に着手する以前に、買い主が手付金を放棄して売買契約を解除したような場合には、媒介報酬の額についての合意がそのまま適用されるとは考えないのが通常と思われる。
(3)そうすると報酬の額についは、当事者間の合意が存在しないことになるが、媒介報酬の特約がない場合でも、媒介業者である不動産会社は商法512条(報酬請求権)により相当の報酬額を請求できると解される。本件において媒介業者が受け取るべき相当な報酬額については、取引額、媒介の難易、期間、労力その他諸般の事情を斟酌して定めるべきである。
(4)以上からすると本件では、手付金の額が売買代金額に対して比較的小額であることや媒介業者は契約締結の経過で格別の労をとったことがないこと、また売主は売買契約締結および履行のため格別の出損をしたことが窺えず、さらに本件土地の所有権を喪失することなく、手付金2,000万円を取得する結果となったこと、そのほか本件に現れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件で媒介業者が売主に請求することのできる報酬額は1,000万円が相当である。
媒介報酬の請求に関する過去の判例や学説によれば、媒介により契約が有効に成立した以上、手付放棄、合意解除や債務不履行などによる契約解除が行われても、報酬請求額の成立に何ら影響を与えるものではないとしている。
本事案も、手付放棄によって解除された場合、媒介業者は約定報酬の全額は請求できないとしながらも、商法512条により契約金額に対する手付金の額や、契約締結過程で媒介業者が通常以上の労をとったかなどを総合的に考慮し、相当額が判断されたものである。
業法所轄課での媒介にかかる報酬については「契約時に約定報酬額の半額を、その残余金は最終代金精算日とし、手付放棄等によって契約が解除された場合には、契約時に授受された金銭をもって相当する」との考え方に立って指導が行われており、本判決は実務上参照に値するものと思われる。